近年、介護医療現場における転倒転落、またそれに関する医療訴訟が話題となっています。
医療訴訟まで至ると、双方に経済的・時間的・精神的に大きな影響がある上に、メディアで大きく取り上げられるなど社会的な影響までもが出ることもあります。医療訴訟とは何なのか、医療・介護従事者は何に気を付けて業務にあたることが必要なのかを、シリーズで掲載していきます。
第2回では、「医療訴訟の流れ」をテーマに、実際に医療事故が発生した場合の、民事での紛争解決の流れをご説明します。
医療訴訟の流れ
①訴え提起
裁判所に定められた要件を満たす訴状を、裁判所に提出することをいいます。
裁判所に提出された訴状は、相手方に送付され、訴訟が裁判所で取り扱われるようになります。訴えを提起する側を原告、される側を被告と呼びます。
②第一回口頭弁論・争点整理手続き
民事訴訟では、訴えが提起された段階で、すぐに当該事件における問題点が把握できるわけではありません。そのため、その事件において何が問題なのか、原告と被告の言い分はどこが一致していてどこが食い違っているのかといった「争点」を明らかにしていかなければなりません。被告の準備が整ったら、原告、被告が共に裁判所に呼び出され、「第1回口頭弁論会」が開かれます。口頭弁論会では、当事者双方が公開法廷において、お互いの言い分を主張したり、証拠を提出したりします。また、原告・被告・裁判所の三者が、当該訴訟において何が重要な争点となるのか等について議論する「争点整理手続き」が行われます。口頭弁論期日や争点整理手続きは、通常およそ1〜2ヶ月に1度開かれ、事案の複雑さに応じて開催される回数は変化します。医療訴訟は専門性が高く、事案が複雑なことが多いことから、争点整理手続きに時間がかかります。その結果、医療訴訟は他の訴訟と比べ長時間となります。
③証拠調べ・鑑定
裁判において、当事者は、自己の主張の裏付けとなる証拠を裁判所に提出しなければなりません。この証拠には、書証と人証の2つがあります。
当事者双方が十分な証拠を提出したものの、事案の性質から裁判所がさらに専門家の意見を聞きたいと考えた時に、鑑定という手続きが取られることがあります。
書証:文書そのもののことを指します。文書は随時提出されて証拠調べがなされます。
人証:当事者本人や証人の発言などを指します。証拠調べは尋問により行われ、公開法廷において主尋問、反対尋問などが行われます。
④弁論終結・判決
これらの手続きを経て審理が尽くされると、口頭弁論は終結し、判決が下されます。
⑤上訴・確定
裁判が確定するまでの間、当事者はいつでも、お互いに譲り合って、裁判所の関与の下、紛争を解決することができ、これを裁判上の和解と言います。また、下された判決に納得できない場合には上訴手続きに移行することができ、第二審を控訴審、第三審を上告審と言います。上告審まで争われた場合、通常はその判断を持って訴訟は終結することになります。なお医療過誤訴訟ではまれですが、敗訴した当事者が賠償に応じない場合、勝訴した当事者は一定の手続きを経て、敗訴した当事者の財産から強制的に損害の充填を受けることができ、これを強制執行と言います。
医療訴訟の平均審理期間は長い
医療訴訟の平均審理時間は下図の通りで、令和4年には26.5ヶ月となっています。
裁判所も当事者も、医療に関する専門的な知識を十分に備えているわけではないため、事案や問題点の把握に非常な時間と労力が必要となります。この状況を是正すべく、平成13年より、東京・大阪など大都市の地方裁判所に、医療事件を集中的に担当する部が設けられました。これにより、医療訴訟の平均審理期間は従来と比較して減少しましたが、依然として他の訴訟よりも長い傾向にあります。
今回の記事では、「医療訴訟の流れと特徴」についてご説明しました。医事関連訴訟は専門性が高く、医療者側と司法側の相互理解が必要です。また平均審理時間が長く、裁判の間患者・患者家族の救済は棚上げされてしまうことになります。そこで近年、過失の有無に関わらず広く、早期の被害者救済がなされるよう、無過失補償制度の創設の提言がなされています。無過失補償制度について、今後の別記事にてご説明いたします。
(参考文献)
裁判所HP(2024/4/30最終閲覧)
医療法学入門 第3版 医学書院