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《Column vol.24》訪問リハビリに必要な転倒予防の視点

《Column vol.24》訪問リハビリに必要な転倒予防の視点

私は現在、訪問看護ステーションに所属している理学療法士として、要介護状態にある利用者さんの家を訪問し、そこでリハビリ(訪問リハビリ)を提供しています。

訪問リハビリを行う前まで、13年間病院で勤務していました。私の勤務していた病院は救急病院であったため、高齢者の転倒による骨折、特に股関節の骨折(大腿骨頸部骨折や大腿骨転子部骨折)や背骨の骨折(脊椎圧迫骨折)の患者さんが毎日のように搬送されてきたので、病院勤務時代は「高齢者の転倒≒骨折」というイメージが強くありました。

しかし、訪問リハビリに従事するようになり、高齢者の暮らしを近くで見ていると、骨折に至るケースは氷山の一角で、その倍以上の頻度で転倒していることがわかりました。そこで今回は、訪問リハビリにおける転倒予防の視点をご紹介します。もちろん、訪問リハビリに関わるリハビリ専門職だけでなく、ケアマネジャーや病院・通所施設で勤務している専門職の方々の参考になるような内容になっております。

訪問リハビリの特徴

対象者

多くの訪問リハビリの対象者(利用者さん)は、要支援1〜要介護5までのいずれかの認定を受けています。これにより、介護保険を利用して訪問リハビリを受けることができます。また、前提として「通院が困難な人」という条件が厚生労働省から示されています。なお、訪問リハビリが必要となった原因の第1位が脳卒中(31.4%)、第2位が骨折(26.6%)となっています。

脳卒中の後遺症として多い運動麻痺や感覚麻痺は、つまずきや膝折れといった転倒を引き起こします。また、骨折の主な原因に転倒が挙げられますが、転倒歴のある人は再転倒する確率が高くなるとも言われています。つまり、訪問リハビリの利用者さんの多くは、転倒ハイリスクなのです。

介護報酬

訪問リハビリは多くの場合、介護保険を利用しているので、国が示す介護報酬に沿って値段が決まります。現在の介護報酬では訪問リハビリ(正確には訪問看護ステーションからの訪問リハビリ)を開始して12ヶ月経過した要支援1〜2の利用者(つまり比較的軽度の要介護者)の基本単価は13ヶ月目から減算されます。介護報酬は国からのメッセージが込められており、これは訪問リハビリに対して「軽度の要介護者の場合、訪問リハビリ開始から1年で通所や通院、社会参加などの外出が可能となるような関わり」が求められていると言えます。

つまり、訪問リハビリには、転倒ハイリスクな利用者さんをなんとか外出や社会参加につなげるという役目があります。その上で、転倒は、たとえ骨折などの怪我を負わなくとも歩行や活動への意欲を低下させてしまう要因になるので、避けたいところです。

転倒リスク評価

訪問リハビリの利用者さんが転倒ハイリスクだと先述しましたが、転倒リスクの有無を見分けて対策する必要があります。ここでは訪問リハビリの利用者さんを含む在宅高齢者の転倒リスクを簡単に評価できる方法をご紹介します。

Fall Risk Index(以下、FRI)

FRIは、鳥羽らが開発した転倒リスク評価表であり、筋力などの内的要因(自身の問題)だけでなく、服薬状況などの転倒にまつわる外的要因(自身以外の問題)も包括的に聞かれている質問票になっています。この点数が6点以上で“転倒リスクあり”と判別されます。

(鳥羽らの『高齢者の転倒予防ガイドライン』を参考に筆者が作成)

見ての通り、転倒歴が5点になっているため、転倒歴があればあと1項目当てはまるだけで“転倒リスクあり”になります。このことから、転倒歴の有無がどれだけその後の転倒リスクに影響するかが読み取れます。

また、薬を5種類以上服薬している高齢者は非常に多いです。「朝食後の薬は10錠」という方もいらっしゃいます。近年ポリファーマシー(多剤服用)が身体的・社会経済的にも問題となっています。多剤服用されている方やご家族は転倒予防の観点からも、減らせる薬はないのか、医師に確認してみることから始めてみてはいかがでしょうか?

5回いす立ち上がりテスト(以下、CS-5)

やはり筋力も転倒リスクを知る上では重要です。CS-5は40cm程度の普通の家庭用のいすがあれば可能な足の筋力評価です。できるだけ速く5回連続していすからの立ち座りを繰り返してもらい、5回目に立ち上がった時点までの時間を計測します。いすがずれたりしないように抑えてあげる必要はありますが、CS-5はケアマネジャーや看護師でも評価可能です。12秒以上かかると足の筋力低下が疑われ、転倒への注意が必要となります。

訪問リハビリですべき転倒対策

環境整備

訪問リハビリの1番の強みは、利用者さんの自宅に訪問できるという点です。つまり転倒しやすい場所やリスクとなる場所を目で見て評価し対策を練ることができます。環境調整に関しては、こちらの記事(《Column vol.02》転倒予防のための住環境整備)をご参照ください。

複合的な運動

過去の研究で、筋力トレーニングのみでは転倒リスクの軽減には効果がなく、バランス運動やウォーキングなどと組み合わせることで効果が現れると言われています。訪問リハビリでは、40〜60分間利用者さんとのマンツーマンの時間が確保できるので、状態に応じた運動処方をすることができます。

社会資源の活用

先述の通り、訪問リハビリには利用者さんを外出や社会参加につなげることが求められています(もちろん、全員ではありませんが)。どんな人がいるのか、どんな場所に行きたいか、そこで何がしたいか、それは訪問リハビリだけで叶えられるものではありません。なので、その地域に利用者さんの望む社会資源があるのかどうかを知る必要があります。その上で、どうすれば行けるのかと具体的な方法を考えていくわけです。世界保健機関(以下、WHO)は「高齢者の転倒予防のための行動変容」として以下の内容を推奨しています。

①バランス機能の改善と転倒予防を可能にする多数の介入に関する一般の意識を高めること

②介入の提案や広報活動を行うときには、高齢者の自己意識の肯定的な部分にアピールできる利益を強調すること

③高齢者を巻き込むためには、多様な社会的促進のための活動を利用すること

④個人のニーズ、好みや能力に確実に合うように介入を考案すること

⑤高齢者に積極的な役割を与えることにより、専門家に依存せずに、自己管理をするよう奨励すること

⑥特に長期間の継続を維持するプロセスの促進や評価の有効な方法を活用すること

③④⑤からわかるように、社会参加を促すことは転倒予防につながるのです。また、①②⑥は個別性の高い関わりのできる訪問リハビリの強みが活かせると感じます。

まとめ

  • ・訪問リハビリの利用者は転倒ハイリスクな方が多い。
  • ・訪問リハビリには、利用者さんを外出や社会参加が可能になるような関わりが求められている。
  • ・転倒リスクの評価はFRIやCS-5など、自宅で簡単にできる。
  • ・社会参加はWHOも転倒予防策として推奨しているが、そのためには地域の社会資源を知る必要がある。

この記事を監修しました

岡川 修士

岡川 修士 / 理学療法士・福祉住環境コーディネーター2級・地域ケア会議推進リーダー・介護予防推進リーダー

2010年に理学療法士として入職した病院では、急性期〜回復期のリハビリテーションに加え、住民対象の介護予防事業に携わっていた。現在は、訪問看護ステーションかすたねっとにて、訪問リハビリに従事する傍ら(株)Magic Shieldsのコラムを担当している。

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