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《Column vol.07》転倒対策に有効な福祉用具《トイレ・浴室編》

2023.10.20 Fri

《Column vol.07》転倒対策に有効な福祉用具《トイレ・浴室編》

自宅で転倒する場所としてイメージされやすいトイレと浴室ですが、以前の記事で自宅での転倒発生場所としてトイレは10位、浴室は7位だと紹介しました。

イメージに反して転倒発生率はそれほど高くない場所のように見えますが、トイレは便座への立ち座りやズボンの上げ下ろし、浴室は床面が濡れた環境の中で浴槽をまたぐという不安定な動作がそれぞれの場所で必要となることから、むしろ転倒リスクは高い環境と言えます。

このような環境は身体機能の低下した高齢者や障がい者は利用しづらい環境であるため、トイレと浴室の環境を整備することは、転倒対策だけでなく生活の質を守る観点からも重要です。

トイレには便座、浴室には浴槽という特徴的な構造がありますが、その環境で安全に動作ができるための福祉用具もリリースされています。今回はトイレと浴室の転倒対策に有効な福祉用具をご紹介いたします。

トイレ編

トイレでは、便座の立ち座り、下着・ズボンの上げ下ろし、便座カバーの開閉といった、重心の上下動を強いられる場面が多くあります。

脚の筋力が低下し、立ち座りに不安のある高齢者にとっては、支えになるような手すりがあれば安心ですが、借家のため手すりの設置ができない場合やペーパーホルダーの位置の関係で有効な場所に手すりが設置できないこともあります。

そんな時は、便座横に設置できる置き型手すりが便利です。片側タイプと両側タイプがあり、便座の形状にベースプレートがカットされた製品や、便座にはめ込む製品など、バリエーションが豊富なため、住宅の条件と対象者に合わせた製品を選択することができます。

トイレ用手すり

また、現在の便座の高さは、床から38〜40cmが主流ですが、1970年代以前に建てられた住宅の便座では、35〜37cmが主流でした。便座の高さが低いと重心が低くなり立ち上がりにくくなってしまいます。

「低い便座+狭いトイレ内のスペース」でどうしても置き型手すりが設置できない場合は、既存の便座に被せて設置するだけで便座を高くする“補高便座”もあります。ただし、この商品はレンタルに対応しておらず、購入のみなので、リハビリ専門職(理学療法士や作業療法士)による対象者の立ち上がり能力の評価後に購入されることをオススメします。

補高便座

浴室編

浴室内は床が濡れているため、置き型手すりやつっぱり型の手すりが設置しづらい環境です。

浴室で最も手すりに頼りたくなる場面は、浴槽をまたぐ時です。浴槽をまたぐ瞬間は片足立ちを強いられるので、高齢者は手すりのようにしっかり握ることができる支えがあると安心です。手すりがない場合に浴槽の縁や蛇口を持って浴槽をまたいでいる高齢者を多く見かけますが、握るために設計されていないので不安定です。賃貸住宅などで浴室の壁に手すりを取り付けられない場合でも“バスグリップ”という浴槽の縁に設置できる福祉用具があります。特に、これまで浴槽の縁を持って浴槽をまたいでいた高齢者にとっては馴染みのある動作方法で安全性が増すのでオススメです。

バスグリップ

大腿骨の骨折などで、足の筋力低下や股関節の可動域が減少した高齢者は、立ったまま浴槽をまたぐことが困難になります。その場合は、 “バスボード”や“シャワーチェア”を使えば座って浴槽をまたぐことができるので安全です。“バスボード”は浴槽の上に橋を掛けるように設置し、対象者がそこに座ります。そして向きを変えながら浴槽をまたぐことができます。

“シャワーチェア”は身体を洗う時に座るためのものですが、「浴槽の高さと座面が同じであること」と、「肘掛けを跳ね上げること」ができるものなら、浴槽の横に付けることで“バスボード”と同じ方法で座ったまま浴槽をまたぐことが可能です。

バスボード
シャワーチェア

浴槽をまたぐことが不安な高齢者やご家族は、リハビリ専門職や福祉用具専門相談員へご相談いただくと、今回紹介した方法でどれが対象者にとって最適かを判断していただけると思います。

まとめ

今回の記事では、トイレと浴室という自宅内でも特殊な環境での転倒対策に有効な福祉用具をご紹介しました。

この2箇所は「地肌と福祉用具が直接触れる」環境であることから、レンタルには対応しておらず、購入のみの商品が多くあります。そのためうまく使えなかった場合でも原則として返品が困難なので、リハビリ専門職や福祉用具専門相談員による評価に基づいて購入する商品を選ぶことが重要です。

転倒により大腿骨を骨折した高齢者は、脚の筋力が低下したことでトイレでの排泄や自宅での入浴が困難になる場合が多いです。しかし、今回紹介した福祉用具を利用することでトイレと浴室の動作の安定性が増します。転倒・骨折後もこれまで通りの生活ができるよう福祉用具を有効に利用しましょう。

この記事を監修しました

岡川 修士

岡川 修士 / 理学療法士・福祉住環境コーディネーター2級・地域ケア会議推進リーダー・介護予防推進リーダー

2010年に理学療法士として入職した病院では、急性期〜回復期のリハビリテーションに加え、住民対象の介護予防事業に携わっていた。現在は、訪問看護ステーションかすたねっとにて、訪問リハビリに従事する傍ら(株)Magic Shieldsのコラムを担当している。

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