足の筋力が弱ってきた、ふらついて転びそうになる、背中が丸くなってきて歩きづらい…など、高齢者は歩行や転倒に対して多くの不安を感じています。
そこで今回は、歩行の不安を解消するための杖に関する情報をお届けします。福祉用具の中で、杖は歩行器などと合わせて「歩行補助具」と呼ばれています。
高齢者自身だけでなく、高齢になった親を見て子ども達がプレゼントするという話もよく耳にします。
しかし、一言で“杖”と言っても、かなり多くの種類やデザインがあります。この記事を読まれている方の中にも「どれを選んだらいいのかわからない」と言う方もいらっしゃるかもしれません。
今回の記事では、まず杖の基本的な効果を紹介し、次に杖の種類と、どのような方に適しているのかをお伝えします。
なぜ杖を使うと安全なのか
ここで一般的であるT字杖を例に挙げて説明したいと思います。
杖を使用する主なメリットはこちらです。
①重心が安定する”支持基底面”が広がる。
②脚の筋力を補ってくれる。
①重心が安定する“支持基底面”が広がる。
人間は二足歩行する生き物ですので、立ったり歩いたりする時に地面に接しているのは足の裏だけになります。この地面に身体の一部が接している面積を“支持基底面”と言います。
そして支持基底面の中に身体の重心がある時に姿勢は安定しており、支持基底面から重心が外れた時がバランスを崩して転倒すると言われています。
高齢者は重心を安定させることが苦手になるので立つ、歩くだけで容易に支持基底面から重心が外れるので転倒してしまいます。
そこで杖の出番です。杖をつくことで支持基底面が広がります。つまり重心を安定させられる面積が広がるので、高齢者の転倒予防になるのです。
②脚の筋力を補ってくれる。
杖の種類によって体重を支えられる割合は変わりますが、T字杖でも体重の10〜20%を支えることは可能です。
つまり、その分だけ脚への負担が減るので、筋力が低下した方の手助けとなります。
脚の骨折後や変形性関節症などで、片方の脚の筋力が弱い場合、杖を持つ手は“弱っている脚とは反対側”になります。人間は歩行中、必ず片方の脚で身体を支える時間があります。この時、筋力の弱い脚では身体を支えきれなくなり、浮いている脚の方へ身体が倒れそうになります。そこで、杖を着いていれば身体の傾きを抑えて転倒を防ぐことになるのです。
杖の種類と適応
ここからは、多々ある杖の種類から一部をピックアップし、その特徴と適応となる方まで紹介します。
T字杖
最も一般的な杖です。基本的な杖の長さの合わせ方は、杖を持つ側の足のつま先の斜め前に杖を接地させ、その時のグリップの高さが大腿骨大転子(股関節の外側で骨の出っ張っている部分)になるように合わせます。グリップを握った腕は肘が30°ほど曲がっていると歩行時に支えやすくなります。
T字杖は軽量で高齢者でも使用しやすいというメリットがあります。また、一般的な製品故にカラーバリエーションや柄の種類も豊富です。一方で、接地面が1点であり、グリップを握った手のみで支えるため、体重を支えられる割合は低くなります。つまり適応は、脚の筋力が体重を支えられる程度に保たれている方になります。
多点杖
杖の先端が数本(主に4本)に分かれて、接地面が広くなっている杖です。接地面が広くなっているので、支持性が向上し、安定感が増します。グリップの形状や持ち手の正しい位置などはT字杖と一緒です。
使用する時は、数カ所に分かれている杖の先端が同時に地面に接地するように、杖を地面に対して垂直に下ろさなければなりません。斜めに接地して仕舞えば、いずれか1点だけが接地してしまい、杖がぐらついてしまいます。また、T字杖より重量感があることもデメリットになります。適応は脳梗塞後遺症の運動麻痺などでふらつきの大きい方、かつ多少の重量感のある杖を操作できる方になります。
歩行車
杖ではありませんが、屋内外で利用されている高齢者が歩行車についても紹介いたします。歩行車は歩行器の1つの種類であり、多くのタイプが4つのタイヤからなり、自転車のようにグリップにブレーキが備わっています。
先述した“支持基底面”はもちろん杖よりも前方に広くなっており、円背(猫背のように背中が丸くなり、顔が前に突出している姿勢)のように前方につんのめるリスクのある方にオススメです。デメリットは、地面と接しているのはタイヤのためブレーキの操作が必要であること、屋内で使用するには廊下や部屋の動線には通行や転回のための幅が必要であることが挙げられます。
今回紹介した以外にも、様々な歩行補助具があるので、お悩みの方はリハビリ専門職や福祉用具専門相談員にご相談いただければと思います。