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《Column vol.25》転倒と失神・意識障害について解説

《Column vol.25》転倒と失神・意識障害について解説

高齢者の転倒は骨折含む外傷だけでなく、その後に要介護の原因となりうることは多くの人が知っていると思います。では、何故高齢者は転倒しやすいのでしょうか?高齢者は全身の筋力やバランス能力が低下し、確かに転倒の原因となります。しかし、その背景には心疾患や薬剤といった高齢者特有の状態が大きく関係しています。この記事では転倒の原因として、失神・意識障害と薬剤について解説します。

転倒の原因〜内因性と外因性〜

転倒は怖いものであるというイメージはみなさんお持ちでしょう。では、なぜ人は転倒してしまうのでしょうか?転倒の理由を知ることは、次の転倒を予防することにも繋がりますのでぜひこれを機会に考えてみましょう。

転倒の原因には外的因子と内的因子とがあります[1]。外的因子とは主に「転倒しやすい環境」のことです。暗い、すべりやすい床、気づきにくい段差などが転倒につながるのは容易に想像できますね。

内的因子には大きく身体的疾患や薬剤、加齢性変化があります。身体疾患の中でも筋力が低下したり、疼痛があったりなどあがる整形疾患はイメージしやすいでしょう。他の内的因子には循環器・血管系、(不整脈、心不全、脳血管疾患など)、神経筋疾患(パーキンソン症候群、末梢神経障害、てんかんなど)、眼科疾患(白内障など)などがあります。ここでは身体的疾患の症状の一つである失神と、薬剤に焦点をあててみましょう。

転倒と失神・意識障害

そもそも失神とは?

そもそも失神とはどのような状態なのでしょうか?
救急医学会のHPでは失神ついて以下のように述べています[2]。

広義には一過性の意識消失全般を含むが、狭義には、脳血流の低下による意識と姿勢緊張の可逆的な消失をいう。失神発作の意識消失は、ごく短時間であり、全く後遺症を残さず回復する。
回復して姿勢を保持できないものを失神と定義しているのです。失神そのもので生命に直結するわけではありませんが、失神の原因となる疾患には生命に関わるものも多くあります。また、失神することで転倒や頭部打撲、骨折、自動車事故などの別の疾患・傷害に繋がる可能性もあります。

一生の中で一度でも失神を経験する人は、人口の19-41%と報告されています[3]。また、失神は救急来院のうち5%前後、入院例の2%前後であり、受診・入院の自由としても多いと言えます[4]。

失神の原因

失神の原因は主に心原性、反射性(神経調節性)、起立性低血圧の3つがあります[5]。心原性失神は3つの中で最も予後が悪いと言われています。

心原性失神とは文字通り「心臓の疾患に伴う失神」であり、心臓から十分な血液を拍出できない場合に起こります。大きく不整脈によるものと器質的心疾患によるものに分けられます。胸痛・胸部不快感。動悸・呼吸困難を伴う失神、労作時や仰臥位での失神では心原性失神を疑います。

不整脈性では洞不全症候群や房室ブロックなどによる徐脈になるものと、心房細動など頻脈になるものなどがあります。器質的心疾患で押さえておきたいのは何と言っても心筋梗塞です。心筋梗塞と言えば胸痛や呼吸困難のイメージがあると思いますが、失神も重要な症候の一つです。無痛性心筋梗塞という痛みのないものもあるため、胸痛がないからと言って心筋梗塞を否定できるわけではありません。

反射性(神経調節性)失神は血管迷走神経性失神とも言われます。「朝礼で長い時間立っていたらふらふらしてきて倒れた」がよく知られるエピソードで、「貧血」と言われることも多いです(もちろん医学的には誤っています)。排尿・排便や咳嗽、食後などの状況でも各種の受容器が刺激されることで反射性失神は起こりえます。

座位・臥位から立位になった時、下肢などへ血液が移動し、心臓へ戻ってくる血液は少なくなります。通常であればそこから血圧を維持する反射が起こりますが、何らかの異常によりそれが起きず、立位時に心拍出量が維持できずに起こるのが起立性低血圧です。脱水や自律神経障害(糖尿病、神経筋疾患など)や薬剤性(降圧薬、利尿薬)などが原因と言われています。

受診する際のポイント

失神があったときには、早期の受診が望ましいです。失神の原因は何か(上記のどれにあたるのか)は医師でも悩むときがあります。受診した方がよいかで悩むこと自体が受診の適応と考えましょう。

前述の失神の分類からもわかるように、失神は状況を詳しく聞くことで正しい鑑別に繋がります。どのような姿勢で何をしているときに失神したのか、持続時間はどれくらいだったのか、眼前暗黒感や痙攣や胸痛などの随伴症状はなかったのかなどがあります。できることなら失神を目撃した人が同伴して説明できると、医師にも伝わりやすいです。

また、気を失ったのが失神ではなく、意識障害の可能性もあります。失神が「気を失って元に戻る」ことに対し、意識障害は「意識レベルが低下したまま継続する、回復しても元には戻っていない」状態です。意識障害の場合は脳血管疾患や全身的な感染症など、早期の対応を行わなければ生命に関わる疾患の可能性もあります。

 

転倒と薬剤

身体疾患と切り離せない関係にあるのが薬剤です。薬剤は医療の発展により数がどんどん増えていますし、先発品・後発品などで種類も多く見えてしまいます。薬剤名を具体的にというよりは、おおまかな作用と転倒との関連を考えられるとよいでしょう。

転倒のリスクを上げる薬剤 

転倒のリスクを上げる薬剤を詳しく見てみましょう。括弧内にオッズ比を記載します。例えば「オッズ比が1.5である」ということは、その薬剤を服用していると転倒する確率が1.5倍高くなるという解釈をします。

心血管系に作用する薬ではループ利尿薬(1.36)ジギタリス(1.60)が報告されています[5]。薬剤としてリスクが同定されていなくても、降圧薬が強く聞きすぎている場合、利尿薬で脱水に傾いている場合など、個人の状態によっては先に述べた起立性低血圧の要因になるので転倒とも関連するでしょう。

向精神薬ではベンゾジアゼピン系(1.81)、三環系抗うつ薬(1.41)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(2.02)が報告されています[6]。ベンゾジアゼピン系は短時間作用型でも長時間作用型でも転倒のリスクとなり、開始初期からリスクが高まります。

その他の薬剤としては、非ステロイド性抗炎症薬(1.09)、抗パーキンソン病薬(1.54)、抗てんかん薬(1.55)などがあります[7]。

転倒のリスクを下げる薬剤

多くはないですが、転倒のリスクを下げるとされる薬もあります。心血管系に作用する薬剤と転倒の関係を調べた論文では、β遮断薬の内服は転倒リスクを12%、スタチンは20%下げたとのことです[5]。

ポリファーマシーと転倒

ここまでは特定の薬剤と転倒について解説しました。一方で、近年ではポリファーマシーという概念があり、薬の数が多くなることが有害事象や認知機能などと関係があるのではないかという議論が起きています。

ポリファーマシーと転倒について調査したイギリスの研究を紹介します[8]。この研究では50歳以上の6220人を対象としたデータが解析されました。結果は、服用している薬剤の数に応じて転倒によって入院する人の割合が増えるというものでした。具体的には薬剤服用がない人たちの転倒による入院の割合は1.5%ですが、1-4種類の人は4.7%、5-9種類の人は7.9%、10種類の人は14.8%でした。この研究では入院の有無を判定しているので、転倒だけで済んだ人の割合はもう少し増えることが考えられます。

地域高齢者の反復する転倒とポリファーマシーを検討したシステマティックレビューもあります[9]。この論文では4種類以上の薬剤を服用していると転倒を繰り返す可能性が1.5-2倍高くなることを示しており、薬剤処方・継続の際にはメリットとデメリットを考慮することを勧めています。

薬剤については必ず主治医に相談

薬剤の種類・数が転倒に与える影響について解説してきました。しかし、特定の薬剤やポリファーマシーと転倒が原因と結果の関係にあるのか、相関しているだけなのかは考えなければなりません。

転倒が怖いからと自分の判断で内服を中止してしまうのはやめましょう。薬剤中止が元の疾患を悪くしたり、生命予後を悪くしたりします。中には急激な中止が望ましくない薬剤もあります。

また、多疾患併存(multimorbidity)により複数の医療機関から処方を受けている高齢者も多いと思います。同じ作用の薬が複数の医療機関から出されていたり、飲み合わせの悪い薬が気づかれぬまま処方されたりすることもあるので、まずはお薬手帳を利用し、ポリファーマシーかもと思った際にはかかりつけ医や薬局に相談しましょう。

まとめ

この記事では、転倒の内因性の原因として、失神と薬に焦点をあてて考察しました。失神は有病率が高く、特に背景に重篤な疾患が隠れているかもしれません。高齢化や医療の高度化が進む中では、薬剤は種類も数も多くなる傾向にあります。失神や薬剤などの内因性の要素に着目することで、転倒する人の数を減らし、転倒した人の予後を良くできる可能性があります。職種や働く場所に関わらず頭に入れておきたいですね。


<参考文献>
[1]鈴木隆雄.日老医誌2003;40:85-94
[2]日本救急医学会 医学用語 解説集「失神」https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0511.htm
[3]Shen WK, Sheldon RS, et al. 2017 ACC/AHA/HRS Guideline for the Evaluation and Management of Patients With Syncope: Executive Summary: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society. Circulation. 2017 Aug 1;136(5):e25-e59.
[4]Brignole M, Alboni P, et al; Task Force on Syncope, European Society of Cardiology. Guidelines on management (diagnosis and treatment) of syncope. Eur Heart J. 2001 Aug;22(15):1256-306.
[5]水牧 功一,井上 博.失神の診療.J Cardiol Jpn Ed 2008; 2: 2 –18
[6]de Vries M, Seppala LJ,et al: A Systematic Review and Meta-Analysis: I. Cardiovascular Drugs. J Am Med Dir Assoc. 2018 Apr;19(4):371.e1-371.e9.
[7]Seppala LJ, Wermelink AMAT, et al: A Systematic Review and Meta-Analysis: II. Psychotropics. J Am Med Dir Assoc. 2018 Apr;19(4):371.e11-371.e17.
[8]Seppala LJ, van de Glind EMM, et al: A Systematic Review and Meta-analysis: III. Others. J Am Med Dir Assoc. 2018 Apr;19(4):372.e1-372.e8.
[9]Zaninotto P, Huang YT, et al. Polypharmacy is a risk factor for hospital admission due to a fall: evidence from the English Longitudinal Study of Ageing. BMC Public Health. 2020 Nov 26;20(1):1804.
[10]Ming Y, Zecevic A. Medications & Polypharmacy Influence on Recurrent Fallers in Community: a Systematic Review. Can Geriatr J. 2018 Mar 26;21(1):14-25.

この記事を監修しました

三田 大介

三田 大介 / 医師・理学療法士

理学療法士として勤務した後、一念発起して医学部を再受験。現在はリハビリテーション科医師として病院勤務。本コラムでは、一つのトピックをより深く、医師の視点を交えながら執筆します。

X(旧ツイッターアカウント):@sanda_igaku

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