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高齢者の心理的不安は転倒を招く!?“転倒恐怖感”を知る《Column vol.26》

高齢者の心理的不安は転倒を招く!?“転倒恐怖感”を知る《Column vol.26》

「高齢者の転倒」と聞くと、その原因として筋力低下のような身体機能の低下を連想する方は多いのではないでしょうか?実は高齢者の場合、心理的な要因も転倒リスクとして挙げられます。その代表例が“転倒恐怖感”です。

高齢者は一度転倒を経験すると転倒恐怖感を抱いて動く意欲が低下し、外出などの活動そのものの頻度が減少します。そして身体を動かさないので筋力やバランス能力が低下し、さらに転倒リスクが上がるという悪循環に陥ります。さらに、転倒したことがない高齢者でも転倒恐怖感を抱いている人が一定数いることがわかっており、しかも転倒恐怖感はそれがあるだけで転倒リスクになると言われています。

今回の記事では、転倒恐怖感について簡単に説明し、どのような人が抱きやすいのか?どのように測ることができるのか?どのような対策があるのか?を述べていきます。

転倒恐怖感とは

定義

転倒恐怖感とは、『身体の遂行能力が残されているにも関わらず、移動や位置の変化を求められる活動に対して持つ永続した恐れ』と定義されています。

硬い言い回しになっていますが、簡単に言うと、『十分動ける身体機能があるにも関わらず、歩いたり移動することが恐いと感じる』状態です。

どんな人が転倒恐怖感を抱きやすい?

転倒後に転倒恐怖感を抱く要因は、

①後期高齢者
②屋外移動時に歩行補助具を使用している
③痛みがある

と言われています。

③の場合、特に大腿骨近位部骨折患者は他の骨折患者と比較して転倒恐怖感を感じやすいという結果も出ています。その理由に、大腿骨という脚で最も大きな骨を骨折したことで、脚で身体を支えた際に痛みを感じやすく、身体を支えるのに十分な力が発揮できないのだと考えられます。

どうやって評価する?

ここからはやや専門的な話になりますが、転倒恐怖感は目に見えないものなので、Modified Falls Efficacy Scale(以下、MFES)という質問用紙を用いて評価するのが一般的です。MFESは日常的な動作14項目を転倒することなく行える自信を対象者に質問し、0(全く自信がない)〜10点(完全に自信がある)の点数を答えてもらいます。MFES139点以下は『転倒恐怖感あり』と判断されます。つまり、14項目全てに10点でなければ『転倒恐怖感あり』になるので、ややシビアな評価と言えます。

項目点数
1.衣服の着脱を行う0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10
2.食事の準備(調理・配膳)をする0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10
3.風呂に入る0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10
4.椅子に掛ける・椅子から立ち上がる0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10
5.布団に入る・布団から起き上がる0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10
6.来客(玄関・ドア)や電話に応じる0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10
7.家の中の廊下や畳を歩き回る0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10
8.戸棚やタンス・物置の所まで行く0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10
9.軽い家事を行う0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10
10.軽い買い物を行う0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10
11.バスや電車を利用する0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10
12.道路(横断歩道)を渡る0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10
13.庭いじりをする、または洗濯物を干す0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10
14.玄関や勝手口の段差を越す0-1-2-3-4-5-6-7-8-9-10

Modified Falls Efficacy Scale (MFES)

対策は?

では、転倒恐怖感はどのように改善(軽減)することができるのでしょうか?
定義で述べたように、身体機能が十分な場合でも恐怖を感じることが転倒恐怖感なので、単純な筋力トレーニングよりも応用的なバランス運動を通じて「これで転けないなら大丈夫」と思えるようになれば効果がありと言えそうです。実際に、ビデオゲームを用いたバランストレーニングで転倒恐怖感の軽減を認めたという結果が出ている論文もあります。

また、私の経験上ですが、先述したMFESのどの活動に自信がないのか、さらにその活動の中でも細分化した動作に自信がないのか、がわかるとリハビリ専門職はリハビリのプランを立てやすくなります。例えば、MFESの「3.風呂に入る」動作で転倒恐怖感が強いならば、特に転倒恐怖感を感じるのは浴槽をまたぐ時なのか?はたまたシャワーチェアから立ち上がる時なのか?浴槽をまたぐ時に手すりがなければ転倒恐怖感を感じる原因となり得るので、この場合は手すりを設置することが転倒恐怖感を減少させることができます。

このように、MFESは点数化以上に対象者がどの動作・活動に転倒恐怖感を抱いているか表出できることが現場では有意義なものとなります。

まとめ

  • ・転倒恐怖感は、移動するに十分な身体機能を有している高齢者でも抱くものであり、それ単体でも転倒リスクとなる。
  • ・転倒恐怖感を抱きやすい方の特徴は、後期高齢者、屋外歩行時に歩行補助具を使用している、痛みがあること出会った。
  • ・転倒恐怖感はMFESを利用することで評価することができ、140点満点でなければ転倒恐怖感ありとなる。
  • ・転倒恐怖感の減少にはバランス運動が効果的である。
  • ・MFESの結果・内容を詳しく聞くことで、転倒恐怖感の原因となる動作や環境がわかるので転倒恐怖感の対策を立てやすくなる。

この記事を監修しました

岡川 修士

岡川 修士 / 理学療法士・福祉住環境コーディネーター2級・地域ケア会議推進リーダー・介護予防推進リーダー

2010年に理学療法士として入職した病院では、急性期〜回復期のリハビリテーションに加え、住民対象の介護予防事業に携わっていた。現在は、訪問看護ステーションかすたねっとにて、訪問リハビリに従事する傍ら(株)Magic Shieldsのコラムを担当している。

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