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《Column vol.28》がん患者の自宅での看取りには転倒予防が重要

《Column vol.28》がん患者の自宅での看取りには転倒予防が重要

日本人の死因第一位である“がん”は、生涯で罹患する確率が2人に1人、つまり50%と言われています(2019年)。それだけ多くの方ががんに罹患し、それが原因で人生の最期を迎えている日本で、自宅で看取られた方はがん死亡者数の中の8%程度です。実はがん患者の多くは「自宅での看取り」を希望されているのですが、身体の苦痛や家族の負担などから自宅療養が困難となり、病院や施設での看取りになるケースが多いようです。

自宅での看取りを妨げる原因に転倒による外傷があります。もし、自宅療養中に転倒し骨折してしまうと痛みによる苦痛のため、自宅で過ごすことが困難となり、入院となる可能性が高いからです。そうならないためには、転倒・骨折を予防するための指導や環境整備が重要になります。

今回の記事では、がんと自宅での看取りについて述べた後に、自宅療養で必要な転倒・骨折予防の取り組みをお伝えします。一部、私の経験を元にした内容となりますので、ご容赦ください。

現在の看取りのあり方

死因と看取りの場所

2022年の厚生労働省の調査では、死因の第一位は悪性新生物(がん)の24.6%であり、第二位は心疾患の14.8%、第三位が老衰で11.4%となっています。医療の発展とともに脳血管疾患や肺炎による死亡率・死亡者数は減少していますが、がんと老衰は近年増加しています。がんは長年死因の第一位であることに変わりはありませんが、超高齢社会の日本に「置いて、がんによる死亡者数の増加は高齢がん患者の増加が原因であると言われています。

令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況より

2019年時点では、死亡した場所は病院が71.3%とダントツで多く、自宅は13.6%でした。これは他国と比較しても病院の比重が非常に多い状況と言えます。また、がん患者の場合、自宅療養を希望する方は40%でしたが、実際に自宅で看取られた方は全がん死亡者のうちわずか8.2%です。つまり、理想と現実のギャップが大きいことがわかります。

Yamagishi A,宮下らのデータをもとに筆者が作成

なぜ自宅で看取れない?

自宅療養を妨げる要因は多岐に及びますが、患者本人と環境(家族・介護者を含む)それぞれに原因があります。患者側の要因として、痛みや呼吸苦などの身体的苦痛があります。また、環境側の要因は、臨終期に向けて家族の介護負担の増加が挙げられます。

在宅医療は着実に定着してきており、痛みのコントロールに使える薬も増えています。訪問看護・リハ・介護を受けることで、本人の体調の不安と苦痛の対処だけでなく、家族も慣れない介護についての相談ができるため介護負担の軽減になります。このように、日本でも少しずつ自宅を看取りの場にできる体制が整いつつあります。

自宅での看取りと転倒・骨折予防

先述のように、自宅での療養環境が整ってきて、今後自宅で最期を迎える方が日本でも増加すると考えられます。患者が望み、家族がその希望を叶えるため自宅での介護を決心し、在宅医療・介護のサービスも調整した…が、自宅で転倒し骨折して入院となってしまった…では誰も報われません。

自宅で最期を迎えるという患者と家族の想いを、転倒・骨折は奪い取ってしまうのです。自宅療養の継続を妨げる大きな原因に耐え難い身体的な苦痛があり、骨折による痛みはそこに分類されます。そのため、なんとか最期を迎えるその時まで転倒・骨折を予防したいものです。そこで中心的な役割を担うのが、リハビリ専門職(理学療法士・作業療法士)です。

環境調整

看取りの目的で自宅療養をすると言っても、当初は独歩(何も持たずに歩ける)が可能な状態の方もいます。しかし、徐々に身体機能が低下していくため、自宅の環境調整もリアルタイムで行われていく必要があります。特にがん患者の場合は、ある日を境に急激に動作レベルが低下することがあるので、先を見越した環境調整の提案が必要になります。

例えば、トイレまで歩行が可能な状態の人であれば、動線やトイレ内に手すりや支える場所はあるのかを確認しておく必要がありますし、ベッド横にポータブルトイレを置くメリットを説明した上で気持ちの面で抵抗感はあるか意思を確認します。

介助指導

身体機能の低下した患者を介護に慣れていない家族が介助するのは心身ともに大変です。誤った介助方法で転倒させてしまうことは想像しやすいですが、患者は骨も脆くなってくるので、寝返りをさせようと無理な力を加えて介助するだけで骨折することもあります。

リハビリ専門職は運動学の知識があるため、患者も介助者も負担にならない介助方法を指導することができます。口頭で伝えるだけでなく、イラストや写真でいつでも見られる場所に貼っておいたり、スマホで撮影して動画を見返すことができるようにするのも有効な手段です。

まとめ

  • ・がんの死亡者は高齢化に伴い増加傾向である。
  • ・がん患者のうち、40%は自宅療養を希望しているが、実際に自宅で看取られたのは全がん死亡者のうち8.2%にとどまっている。
  • ・がん患者が自宅療養の継続が困難な理由は、痛みや呼吸苦などの身体的な苦痛と家族の介護負担の増加である。
  • ・最近は、訪問診療や訪問看護などのサービスの充実により、自宅で看取れる環境が整ってきている。
  • ・自宅での看取りを希望するがん患者の転倒・骨折予防は、自宅療養を継続する上で重要であり、リハビリ専門職の介入意義が高い。

この記事を監修しました

岡川 修士

岡川 修士 / 理学療法士・福祉住環境コーディネーター2級・地域ケア会議推進リーダー・介護予防推進リーダー

2010年に理学療法士として入職した病院では、急性期〜回復期のリハビリテーションに加え、住民対象の介護予防事業に携わっていた。現在は、訪問看護ステーションかすたねっとにて、訪問リハビリに従事する傍ら(株)Magic Shieldsのコラムを担当している。

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