私は理学療法士というリハビリに関わる仕事をしており、現在は病気や障がいのある方のご自宅(生活環境)に訪問してリハビリを行なっています。訪問リハビリの対象者の多くは介護保険を利用されている方、つまり要介護状態の方になります。要介護になった原因は様々ですが、脚の筋力が衰え、転倒の危険性が高い方がほとんどです。なので、転倒を防止する上で自宅の環境は非常に重要になります。
しかし、実際に転倒防止に配慮した環境整備をしている住宅はあまりありません。特に私が現場で気になるのが「床」の問題です。滑る、つまずくなどの転倒の原因は筋力低下だけでなく、床の状況にも問題があるように感じます。今回の記事では、転倒のリスクの高い床はどういうものか?対策はあるのか?という疑問にお答えする形で進めていきます。
床に潜む問題点
床の上に何がありますか?
まず、この記事での床は主に「居間や寝室などの部屋と廊下」の床を指しています。自宅内での転倒場所は意外なことに居間が最も多くなっています。
その1つの理由は、居間の床にはついつい物を置いてしまったり、歩く場所に電線コードがあったりと、つまずくリスクが多いからです。なので、今から始められる転倒対策は、「部屋を見直して、片付けること」です。こたつや充電器のコードは壁際に寄せる、洗濯後の衣服は片付けるなど、面倒ですがこの記事に目を通したことを1つのきっかけに行ってみましょう。片付けが終わってから、この続きを読んでみてください。
床の材質
次に床の材質です。転倒防止の観点では床の材質にはそれぞれメリットとデメリットがあります。ここでは一般的な住宅の床にある、“フローリング”、“畳”、“カーペット”のそれぞれの特徴を挙げてみます。
メリット | デメリット | |
フローリング | ・凹凸が少ない ・廊下と部屋に段差ができない ・拭き掃除が楽 | ・滑りやすい ・硬い |
畳 | ・フローリングより柔らかい ・畳の目に沿わない場合は 滑りにくい | ・畳の目に沿うと滑りやすい ・洋室や廊下との間に段差が生じる |
カーペット | ・滑りにくい ・フローリングより柔らかい | ・引っかかりやすい ・掃除がしにくい |
それぞれメリットとデメリットがあるので、住む人の歩き方の特徴によって床の材質による転倒リスクは変わってきます。例えば、すり足で歩く高齢者の場合、フローリングはよく滑るので歩きやすく感じる一方で、滑って転倒するリスクは高くなります。カーペット地の床では滑りにくいので歩きにくさを感じ、引っかかって転倒するリスクがあります。
このように、私たち訪問リハビリに従事している者は、床の環境や材質と対象者の歩き方などの身体機能を照らし合わせて、どのような転倒対策を取るべきかを考えています。
“すぐにできる”床の問題に対する転倒対策
この記事の最初にもお伝えしたように、1番すぐできる対策は床の上、特に歩く場所には物を置かないことです。この問題で最も対策しづらいものがコタツや扇風機など季節ごとに登場する器具の電源コードです。こちらの対策としては、①延長コードやタコ足プラグを使用して壁に這わせる、②やむを得ず部屋を電源コードが横断する場合は普段あまり通らないエリアを横断させることが挙げられます。
次に、床の材質に対する対策です。先述したように、材質には転倒防止上のメリットとデメリットがあるので、住む人の身体機能を把握してデメリットを消すための対策が必要になります。しかし、「フローリングが滑るから、床全面にカーペットを貼る」「敷居でつまずくから畳の和室をフローリングの洋室へリフォームする」となると時間も手間もコストもかなり大掛かりになります。そこで、すぐできる対策として“室内履き”と“タイルカーペットなどの敷物”があります。この2点は材質の種類に関係なく使用できるのでお勧めです。
室内履き
室内履きはスリッパではなく、踵も覆われている靴タイプにしましょう。ほとんどの室内履きの底面は滑り止めが付いており、滑るリスクを軽減してくれます。これは歩行のみならず、イスやベッドからの立ち座り時にも安心感を与えてくれます。
タイルカーペット
タイルカーペットは、家具屋やネットショッピングで容易に手に入ります。必要な枚数だけ購入でき、取り付けも敷くだけなので非常に便利です。例えば、和室にベッドを置いていて、畳の目に沿って足が滑ってしまいうまく立ち上がれない場合は、ベッドから足を下ろした位置にタイルカーペットを2枚ほど敷けば、その上に立つことになるので滑らず安全に立ち上がりが可能です。
最後に
今回の記事では、私の訪問リハビリでの経験から、転倒に関する床の問題とその対策をお伝えしました。生活環境を変えることは、いくら転倒防止に有効とは言え、住む人からすると心理的なハードルが高いことです。訪問リハビリに従事している方はそのことも理解して勧めなければなりません。また、対象者やそのご家族も、床に潜む転倒リスクを知っていただくことで簡単に始められる対策があることを、今回の記事でご理解いただければ幸いです。