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高齢者の転倒事故は危険!甘くみてはいけない理由と対策《Column vol.60》

2025.04.14 Mon

高齢者の転倒事故は危険!甘くみてはいけない理由と対策《Column vol.60》

1. はじめに

高齢者の暮らしを支えるご家族にとって、日常生活に潜む転倒事故は大きな不安要素となります。特に、ご自宅で過ごす高齢者ほど身近な場所で転倒するリスクが高い傾向があるため、早めに「転倒予防」に取り組むことが重要です。転倒が思わぬ大怪我につながることも多く、実際には骨折や頭部へのダメージなどが懸念されますが、適切な知識と安全対策を講じることで、リスクを最小限に食い止めることは可能です。

ここでは、転倒事故の観点から見た高齢者の死亡率の現状や、それに基づく転倒頻度に関するデータをもとに、今なぜ高齢者に対する転倒予防が社会的な課題として挙げられているのかを整理していきます。転倒は、骨折といった直接的な肉体的ダメージだけでなく、その後の通院や入院が増えることで、経済的負担や本人・家族の精神的負担につながります。そのため、家族としては「転倒による怪我」をいかにして防ぐか、予防のためにどのような行動をとればいいのか、具体的な指針が必要です。

そもそも、高齢者の転倒事故を防ぐには、体力面の維持だけでなく、住環境の整備といった物理的な対策も欠かせません。日常的に使う居室や廊下、浴室の段差や滑りやすさを把握し、「滑り止めマット」や「手すりの設置」をはじめとする事故防止を考えることが大切です。さらに、転倒リスクが高まる原因としては運動不足、バランス能力の低下、視力の衰え、さらには複数の持病による筋力低下などが考えられます。こうした転倒の原因を捉えたうえで、それぞれに対する対策を講じることが、安心できる暮らしにつながるのです。

本記事では、まず高齢者の転倒事故がいかに多いのか、その背景を事故統計や研究調査から確認し、転倒で生じる被害の深刻さを理解していきます。その後、転倒対策として日常で実践できる運動や、安全対策商品である「滑り止めマット」、「手すりの設置」のような具体策について、詳しく解説します。家族ができるサポートや生活支援の要点を踏まえながら、できる限りのリスク管理を徹底していくことは、高齢者本人だけでなく家族にとっても安心な生活基盤を築くうえで欠かせません。

最後に、転倒事故予防のための継続的な取組みがもたらすメリットについても触れます。今日では、転倒による相談やケアをめぐる費用負担は増大しており、早期から緊急対応の必要性を認識して行動することが一層求められているからです。適切な対応と予防策を講じることで、家族全員が落ち着いて暮らせる、より生活安全が確保された環境を作り上げていきましょう。

出典:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html

2. 高齢者の転倒事故の現状とその影響

高齢者の転倒は、単なるつまずきやよろめきだけでなく、その後の生活全般に及ぶ重大なリスクをはらんでいます。人によっては、一度の転倒が日常動作に支障を来すようなケガへと発展し、加齢による回復力の低下や骨の脆化が拍車をかけて、長期的な介護が必要になるケースも少なくありません。さらに、一度転倒を経験すると転倒恐怖や自信喪失により身体活動が低下し、結果的に筋力やバランス能力がさらに弱まって死亡率の増加につながることも指摘されています。

このように、転倒事故は単発的な怪我だけでなく、後の健康管理に大きな影響を与える要素として認知されています。転倒による骨折が原因で外出が困難になると、買い物や趣味の継続が厳しくなり、生活の質が低下するだけでなく、家族にとっては生活支援の手間や費用が増大する恐れがあります。特に、日本の高齢化が進むなかで、家庭内事故の一端を担う転倒の実態を放置すれば、多くの高齢者とその家族が大きな負担を抱える可能性が高まると考えられます。

以下の小見出しでは、まず具体的な統計データから転倒事故の実態を把握し、転倒頻度やその影響度を掘り下げながら、高齢社会特有の現状を丁寧に解説します。そのうえで、転倒被害の程度や骨折をはじめとする主なケガの種類についても確認します。特に、死亡例や長期入院につながる深刻なケースが多いことは、転倒事故の予防方法を検討するうえでの重要な根拠と言えます。実際に死亡数やケガの内容を把握することで、その背景にある可及的対策の必要性がはっきりと見えてくるでしょう。

2.1. 転倒による死亡者数とその比較

高齢化が進む日本では、転倒が直接・間接的に死因となるケースが増加している点に注目すべきです。令和3年の人口動態調査によれば、65歳以上の「転倒・転落・墜落」による死亡者数は9,509人で、これは交通事故による死亡者数2,150人の約4倍にのぼります。これほど顕著な差がある背景としては、交通事故の対策に比べて、転倒に特化した予防方法がまだ十分に普及していない実態が挙げられます。

特に、高齢者特有の身体機能の低下が転倒対策の難しさを増幅させていることが考えられます。足腰の筋力低下や視力の衰え、バランス感覚の減退などにより、若い世代であれば危険と感じないわずかな段差や滑りやすい床でも転倒につながりやすいのです。一方で、転倒防止の意識自体は、安全対策商品や住宅改修の助成制度などの充実により高まってはいますが、交通安全ほど広く周知されていないのが現状でしょう。

この高い死亡率を放置すれば、社会全体の医療費や介護にかかる費用が一層増加し、ご家族の精神的・経済的負担を大きくする可能性があります。高齢者本人にとっても、転倒死という最悪の結果を避けるために、まずは生活空間の安全確保を最優先すべきだと言えます。身近な対策としては、床の段差をなくす、杖や手すりを活用するなどが挙げられますが、その効果を高めるには継続的な点検とリスク管理が欠かせません。

出典:厚生労働省「令和3年 人口動態調査」

2.2. 転倒の頻度と影響

転倒が死亡事故につながる例が増えている一方で、重傷や後遺障がいとして生活の質を著しく低下させるケースも多く見受けられます。高齢者の転倒頻度をみると、65歳以上で自宅に住んでいる方の約2割、施設入居の方では約3割以上が1年間に少なくとも1回は転倒していると報告されています。さらに、性別で見ると女性のほうが男性よりも転倒リスクが高い傾向にあり、年齢が上がるほど転倒率が高まります。

このデータが示すのは、特別な外出や運動をしなくても、日常の家事や立ち上がり、トイレへの移動などの何気ない動作だけで転倒してしまいかねないという現実です。転倒の原因としては、筋力・バランス感覚の低下、視力低下、既存疾患の影響に加え、屋内の段差や照明不足などが考えられるため、多角的な安全対策が必要となります。

転倒による怪我が軽傷であれば、すぐに日常生活に戻れる可能性がありますが、骨折や頭部外傷などになると長期のリハビリや入院が必要となり、その間の生活支援を家族が担う必要性が生じます。転倒後の活動量低下に加え、意気消沈から身体機能がさらに低下するという負の連鎖に陥るケースもあり、いかに早い段階で転倒予防を徹底し、環境調整を図るかが重要になります。

2.3. 転倒によるけがの実態

転倒による代表的なけがとしては骨折が挙げられますが、骨折の中でも特に股関節や大腿骨など下肢の重要部位を骨折すると、歩行が困難になって寝たきりに近い状態を招く可能性があります。実際に調査では、転倒を経験した高齢者のおよそ8割以上が通院や入院を要するほどのけがを負ったという報告があり、こうしたけがが長期にわたる介護や後遺症リスクを引き起こす一因となります。

さらに、骨折以外にも頭部外傷や打撲、捻挫などがあり、高齢者にとっては骨の回復力や細胞修復のスピードが若年時より遅いことが問題を深刻化します。例えば、足首を捻挫しただけでも長期間痛みが続き、結果的に自由な外出が難しくなるなど、生活全体に影響を及ぼす恐れがあります。こうした怪我を繰り返すなかで、安全性向上が必要不可欠であると感じても、具体的にどのような転倒対策を取ればいいか分からないまま過ごしているケースも散見されるのです。

転倒後に失われるのは身体機能だけでなく、精神的にも活動的な日常を保てなくなるという弊害が大きいと言えます。そのため、一度でも転倒を経験した方や、転倒直後の治療・リハビリが不十分な方ほど、後遺症のリスクが高まりやすいのが現状です。繰り返しになりますが、転倒によるけがの実態を把握することは、自宅内外の安全確保や住宅改修を考えるうえで極めて重要だといえます。

3. 転倒防止のための具体的対策

高齢者の転倒を防ぐためには、身体的要因や住環境に対する複合的なアプローチが求められます。ここでは主に、日常生活の中で無理なく取り入れられる転倒対策を取り上げ、継続しやすい運動方法や安全対策商品の活用から、自宅内での事故防止を強化するためのポイントを解説します。身体能力の維持は筋力低下やバランス感覚の衰えを緩やかにし、結果として転倒リスクを下げますが、それだけで万全ではありません。その環境を整えることによって、さらに効果を高めることができます。

対策を成功させるカギの一つは、高齢者自身が主体的に取り組めるようにすることです。どれほど優れた支援技術があったとしても、本人が自らの身体の状態を把握し、適度な運動と住環境の整備を楽しく続けられる工夫がなければ、対策は長続きしないでしょう。また、家族や周囲のサポートが得られやすいように、住まいのレイアウトを見直し、危ないと感じられる箇所を整理することも重要です。

以下では、運動習慣を強化する方法としての運動に加え、「滑り止めマット」や「手すりの設置」などの物理的対策、それから最近注目されている「ころやわ」の導入について具体的に説明します。いずれも、高齢者本人の体力や住環境に合わせて無理なく取り組める方法ですが、組み合わせて行うと転倒防止効果がさらに高まると期待されています。家族としても、こうした情報を踏まえつつ住宅改修に取り組むことで、より安心・快適な住まいづくりに拍車をかけることができるでしょう。

3.1. 適切な運動の継続

転倒予防の基本となるのは、足腰の筋力やバランス感覚を維持するための適度な運動です。ウォーキングや軽いストレッチ、ヨガなどは、体への負荷が比較的小さいため継続しやすく、転倒リスクを抑えるうえでも有効とされています。また、ジムでの筋力トレーニングや水中ウォーキングも関節への負担が少なく、健康管理に役立つ方法です。

ポイントとしては、週に2~3回の運動を目安に、無理のない範囲から始めることです。例えば毎日少しずつでも歩行距離を増やしていく、階段の手すりをあえて両手ではなく片手で支えるトレーニングをする、簡単なスクワットを数回だけ行うなど、自分自身が楽しめる形でバリエーションを持たせるのがコツです。家族がサポートできる環境であれば、散歩に付き合うなど、単調になりがちな運動に多様性を生むサポートを行うと継続性が高まります。

身体機能の改善には時間がかかるため、当初は足腰に違和感があったとしても、急激な動作や過度な負荷を避け、ゆっくりとしたペースで進めることが安全確保の要となります。結果として、転倒頻度を下げるばかりか、運動による血流改善やストレス軽減も期待できます。こうしたプラスの効果が得られれば、本人のモチベーション維持につながり、さらなるリスク管理の向上へと結びつくでしょう。

3.2. 滑り止めマットの活用

高齢者が転倒しやすい場所として、浴室や脱衣所、キッチンなどの水回りが挙げられます。これらのエリアは床が濡れやすく、特にタイルやフローリング素材だと滑りやすくなるため、高い転倒リスクを伴います。そこで推奨されるのが「滑り止めマット」の設置です。最近では滑り止め製品として、多種多様なマットが市販されており、吸水性やクッション性に優れたもの、抗菌加工がなされたものなど、目的や好みに合わせて選択することが可能です。

導入の際のポイントとしては、マットがずれにくい構造かどうか、掃除やメンテナンスが簡単かどうかを確認することです。濡れた状態のマットが乾きにくい場合、カビの発生やマット自体の劣化を招くため、衛生面も考慮に入れる必要があります。さらに、一度敷いたら終わりではなく、定期的に点検して滑り止め効果が落ちていないかチェックすることが重要です。マットを敷く範囲も、立ち上がり動作を頻繁に行う場所や、移動動線が曲がり角になっている場所など、実際の動きを踏まえて検討すると効果的でしょう。

また、トイレや洗面所などの限られたスペースでも転倒事故は起こりやすいため、小さめのマットを複数組み合わせて敷くなど工夫することで家庭内安全が高まります。大掛かりな改装工事が不要な点も利点のひとつですので、まずは低コストで導入できる安全対策として選ばれることが多いといえます。こうした小さな配慮が重なって、結果的に大きな転倒予防効果を生む可能性があるのです。

3.3. 手すりや滑り止めの設置

「手すりの設置」は、住宅改修を検討する際の最重要項目の一つです。玄関や廊下、階段の上下部分、トイレや浴室など、立ったり座ったりする動作が多い場所や段差のある箇所に手すりをつけるだけで、転倒リスクは大幅に下がるといわれています。手すりは、高齢者だけでなくリハビリ中の方や小さなお子さんなど、多様な家族構成にとっても便利ですが、特に脚力やバランスが弱っている運動が苦手な方には強い味方となるでしょう。

設置する際は、手すりの高さや長さを、実際に使用する方の身長や腕の長さに合わせることが大切です。一般的に手すりが高すぎると力が入りにくく、低すぎると腰や腕に負担がかかりやすくなります。また、握りやすい太さのものを選び、周囲に障害物がない状態で取り付けることもポイントです。さらに、手すりの表面が滑りすぎないように加工されているものを選ぶと、濡れた手でも握りやすいので安全です。

床に滑り止め加工を施すのも有効な方法です。床材そのものを滑りにくいものに変えるリフォームは費用がかかりますが、近年では塗布タイプやシートタイプなど安全対策商品として手軽に扱える製品が多く登場しています。これらを使うことで床面自体の滑りにくさを高められ、転倒予防効果を強化することができます。手すりと滑り止めを組み合わせれば、住環境はさらに安全性が増します。

3.4. ころやわの設置

近年注目されている「ころやわ」は、高齢者が転倒しやすい段差や階段、床の固い部分に敷く柔軟性に富んだ介護用品の一種です。一般的な安全対策商品の一つとして位置づけられ、衝撃を吸収しやすい素材で作られているため、万が一つまずいた際にも地面に激しく衝突するリスクを軽減できる特長があります。転倒事故そのものを完全に防ぐわけではありませんが、ダメージを最小限に抑える手立てとして広く関心を集めています。

導入する上での利点は、クッション性が高いため骨折をはじめとする深刻な外傷のリスクを抑えられることです。また、独特の感触が足裏に伝わることで、歩行時の注意が向上するといった副次的な効果も期待できます。一方で、クッション素材ゆえに歩行感覚が逆に不安定になる人もいるため、事前にサンプルを試してみるなど個々人の体調や生活動線に合わせた検証が必要です。

ころやわの設置に合わせて、「滑り止めマット」や「手すりの設置」といった他の対策を並行して行えば、より効果的に転倒事故予防を実践できます。家の構造や使用者の特性を考慮して最適な箇所に敷き詰めることで、普段からつまずきやすい場所や危険と感じる場所を安心に変えられるのです。そのため、ご家庭や施設で包括的な住宅改修を検討中の方は、ぜひ選択肢の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。

4. 転倒による怪我の後遺症と経済的負担

転倒事故は、瞬間的な衝撃によるケガだけでは終わらない可能性が高いことを理解しておく必要があります。高齢者の場合、一度の転倒で骨折や頭部外傷といった深刻な怪我を負った後に、長期的な通院が必要となるケースが多く見られます。さらに、その影響が数カ月から数年にまで及ぶ場合も少なくなく、後遺症や骨の変形・筋力の衰えなどが進行することで、日常生活の動作範囲がさらに制限される恐れも指摘されています。

経済面でも、治療費やリハビリ費用、必要な福祉用具の購入費用、住宅改修など、負担は大きくなりがちです。家族による介護が必要になれば、仕事との両立が難しくなる家族が出てくることもあり、家庭全体で負う負担が増すことでストレスや生活水準の低下に直結する懸念があります。ここでは、転倒事故による後遺症・経済的負担がどのように家族や本人の生活に影響を及ぼし得るのか、詳しく解説します。

この状況を防ぐためにも、転倒を未然に防ぎ、あるいは転倒しても大怪我につながりにくい環境を整備することが重要です。これまで紹介した安全性向上を目指す具体策を行い、転倒のリスクやその後にかかる費用を抑える努力を続けることが、結果的に高齢者本人のみならず家族全体の安心・安定した生活を支える道筋となるでしょう。

4.1. 転倒による後遺症

高齢者の場合、転倒の衝撃で骨折した箇所がうまく回復せず、変形や痛みを長期的に引きずる後遺症が起こりやすい傾向があります。例えば、大腿骨近位部を骨折すると手術が必要になるケースも多く、その後のリハビリにはかなりの時間と根気が求められます。それでも、回復が思わしくないと高齢者通院を継続することになり、精神的な負担も蓄積していく恐れが高いのです。

また、転倒による頭部外傷や脊椎損傷など、神経系にダメージが及んだ場合は、認知症状の悪化や下半身の麻痺につながるリスクもあります。せっかくリハビリで少しずつ回復しても、再転倒への恐怖心から屋内外での活動量が極端に低下し、結果として筋力やバランス感覚がさらに落ちてしまうという悪循環に陥りやすいのも特徴です。こうした後遺症の多くは、適切なタイミングでの対応と、発生を未然に防ぐ生活安全の取り組みで、ある程度は回避できると考えられています。

転倒が引き起こす後遺症は当人の生活の質を奪うだけでなく、家族には看護や介護の負担増をもたらします。身体だけでなく精神面でも大きな影響を受ける可能性があるため、転倒を経験したあとのリハビリだけでなく、予防策の徹底と周囲の理解が必要不可欠です。

4.2. 治療費と介護費用

転倒による骨折などで入院をする場合、手術費や入院費、リハビリ費用など医療費が大幅にかさむ可能性があります。高齢者の場合、自己負担割合が抑えられる医療制度や保険を利用できることはあるものの、長期入院に伴う費用や、退院後の介護保険サービス利用料、福祉用具レンタル費用などは別途かかってきます。さらに、重度の後遺症や外傷が残れば、その後の介護に関わる多面的な経費も継続的に必要です。

もちろん、経済的負担は家族にも直結します。家族が仕事を減らしたり辞めたりして介護に専念する場合、収入減少と介護費用の増加が同時に発生するため、家計全体が圧迫されるケースは珍しくありません。こうした金銭的リスクに備えるためにも、早期段階から転倒予防をはじめとする対策を講じ、転倒がもたらす被害の規模を少しでも抑えることが重要です。結果として、医療・介護費の抑制につながり、家族が安心して暮らせる環境を維持しやすくなります。

医療費や介護費を補助する公的制度や保険商品も充実してきてはいるものの、その適用範囲や給付額には限界があります。そうした現実を踏まえれば、転倒そのものを防ぐ対策が費用効果の面でも最善策だといえるでしょう。

4.3. 家族への影響と対応

転倒事故が家族に及ぼす影響は、経済面だけではありません。転倒による怪我や後遺症のために日常生活動作が困難になった高齢者をサポートするには、介護や看護の負担が増すほか、心理的ストレスや時間的制約も大きくなるでしょう。さらに、転倒への恐怖感が強くなったり、気力が落ち込んだ高齢者のメンタルケアを行う必要も出てきます。こうした重圧は、家族全体の生活スタイルや雰囲気にも影響を及ぼし、時には家族間の摩擦を生むこともあります。

そのため、家族ができる対応策としては、まず住環境の改善によって、怪我を未然に防ぐ努力をすることが重要です。段差をなくしたり、「滑り止めマット」を敷いたり、「手すりの設置」を増やすなど、一度手を加えておくことで、日常の不安を軽減できます。また、地元の生活支援サービスや地域包括支援センターを活用することも大切です。専門家に相談することで、自宅介護に関するアドバイスや補助金制度の紹介を受けられるほか、多角的な視点から改善点を見いだせるでしょう。

家族だけで抱え込まないことが肝要です。転倒リスクを減らすためには、本人の意識づけはもちろん、家族の協力体制やコミュニケーションが欠かせないからです。日々の小さな困りごとや介助のタイミングなどを共有し、少しずつでも安全対策を強化していくことが、長期的に見て高齢者の自立を支え、家族全員が安心して暮らせる環境を築く鍵となります。

5. 家族ができるサポートと安全対策の強化

高齢の家族が安心して暮らせるようにするためには、単に部屋の配置を変えたり「滑り止めマット」や「手すりの設置」を導入するだけではなく、長期的な視点でリスク管理を行うことが欠かせません。日常的に発生するちょっとしたトラブルや異変に気づきやすい仕組みを整え、必要に応じて医療機関へスムーズに連絡できる体制を作るなど、緊急対応を視野に入れた準備が求められます。特に、一人暮らしや夫婦のみの世帯では、外部のサポートを受けつつ、どのように事故防止を徹底すべきかを考える必要があるでしょう。

ただし、家族が過度に世話を焼きすぎると、高齢者本人の自立心やモチベーションが低下しやすいため、程よい距離感を保つことも大切です。適切な支援技術を取り入れつつ、必要な箇所に絞って手厚いサポートを行うことで、高齢者が無理なく安全に暮らせる環境を実現できます。ここでは、「自宅環境の改善」と「情報収集と意識の向上」という2つの視点から、家族ができる具体策をご紹介します。

5.1. 自宅環境の改善

家庭内安全を高める最初の一歩は、実際に危険となり得る箇所を洗い出すことから始まります。例えば、リビングから寝室へ移動するときの動線に段差がある場合、ちょっとしたすり足の歩行でもつまずく可能性があります。玄関や階段、廊下など、転倒リスクの高い場所から優先的に改修を行い、住宅改修の助成制度などを活用して費用を抑えるのも有効な手段です。また、照明の明るさが十分かどうか、夜間にトイレへ行く際のスイッチ位置は使いやすいかなど、細かな点検を継続的に実施することも欠かせません。

さらに、比較的低コストで導入できる「高齢者 安全対策商品」を取り入れることで、転倒の危険度をぐんと下げることができます。「滑り止めマット」やクッション材、「ころやわ」と呼ばれる衝撃吸収マットなど、短時間で設置可能な製品が多いため、日常の隙間時間を活かして少しずつ対策を進めることができます。たとえ家全体の改修が難しくても、危険な場所だけ重点的に安全性を高めるだけでも効果は大きいといえるでしょう。

また、ドアノブや家具の配置にも注意が必要です。体を支えるために仕方なく家具を掴もうとして、逆に家具が動いてしまうケースも考えられるため、固定具を使うなどの工夫が望まれます。こうした事故防止対策を行いながら、本人が安全に動ける空間を整えることが、家族が行うサポートの基盤となるはずです。

5.2. 情報収集と意識の向上

住環境の整備と同時に重要なのが、家族と高齢者本人、さらには地域社会全体の支援技術や制度に関する情報共有です。定期的に自治体の福祉窓口や専門家が開催するセミナーに参加し、最新の安全対策商品や転倒対策に関する情報を得ることで、より効果の高い対策が実践できるでしょう。例えば、転倒感知センサーや緊急通報システムなど緊急対応を支援するテクノロジーも急速に発達しており、必要に応じて導入を検討することが望まれます。

また、転倒予防には各種のガイドラインなど、行政や医療機関から提供される公開情報が存在します。それらを活用することで、家族が独力で調べるだけでは得られない専門知識を取り入れ、より包括的なリスク評価が可能になるでしょう。本人の身体状況に合わせた運動プログラムや柔軟体操のメニューなど、医療従事者の協力を仰ぐことも一案です。

結局のところ、最良の対策は「意識を高め、先回りしてリスクを減らす」ことに尽きます。家族が適切な情報に基づいて行動すれば、高齢者の転倒リスクを低減するだけでなく、心の負担も大きく軽減できるはずです。問題が起きてから対処するのではなく、事前に備えておく姿勢を持つことこそが、高齢者を守り、ご家族が健やかに共生していくための最も大切なポイントといえます。

6. まとめ:安全で快適な生活環境を目指して

本記事では、高齢者が日常で直面する転倒リスクを中心に、その原因や統計データ、「転倒による怪我」が高齢者や家族の生活全般にどのような影響を及ぼすかを解説しました。ご紹介した通り、転倒事故予防方法は身体機能面の強化と住環境面の整備、この両方をバランスよく実行することが鍵を握っています。具体的には、適度な運動を続けることで筋力やバランスを高め、「滑り止めマット」や「ころやわ」、「手すりの設置」などを用いた住宅改修によって安全な空間を整えることにより、転倒がもたらす重大なリスクを大きく軽減できるのです。

さらに、万一の転倒に備えて緊急対応の計画を立てておくことも重要です。緊急通報サービスを利用したり、家族や近隣の協力体制を構築しておくことで、いざというときの対応がスムーズになります。転倒事故による重大な後遺症や経済的負担を最小限に抑える意味でも、事前にリスクを視野に入れておくのは家族としての責任とも言えます。

転倒予防は一朝一夕で完結するものではなく、日々の小さな習慣づくりや環境整備の積み重ねが成果を生む分野です。家庭内安全を高めるために行う工夫は、同時にご家族全員の暮らしを快適にする追い風となるでしょう。改修費用や支援技術の導入に際しては、自治体の制度や助成金を活用できる場合もあるため、必要に応じて情報収集を進めることをおすすめします。

誰もが年齢を重ねていくなかで、できる限り自立した生活を続けるためにリスク管理は欠かせません。ご家庭と地域、そして医療機関や行政のスムーズな連携を図りながら、ぜひ事故防止の取り組みを強化してみてください。未来を見据えた対策により、高齢者と家族がいつまでも元気に暮らせる環境を築き上げることが、安心で豊かな人生への第一歩になるはずです。

この記事を監修しました

杉浦 太紀

杉浦 太紀 / 取締役・理学療法士

転倒予防指導士・福祉住環境コーディネーター2級・整理収納アドバイザー2級

2010年から刈谷豊田総合病院で10年間勤務し、急性期から慢性期まで幅広い分野のリハビリテーションを経験。 2016年よりグロービス経営大学院に通学し、知り合った仲間とともに、株式会社Magic Shieldsを共同創業。

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